川谷 今回は曲単位で考えていて、アルバム全体を通して「こういうバランスにしよう」とかはあんまり考えてないです。「夜風とハヤブサ」を作ったときは、「濡れゆく私小説」より純度が高いシティポップをやろう、みたいな思いがあったけど、アルバム全体としては本当に曲ごとに作りましたね。あえて言うなら、今回リード曲以外はストリングスとかをあんまり入れてなくて、わりとバンドで完結させてるというか、やりすぎるのはよくないから、ちょっと余白を残しておきたかった。
──アレンジをミニマムにしておくという感じですかね。
川谷 「夜の恋は」も最初はストリングスを入れようと思ってたんですけど、結局入れなかったし、バンドの美学みたいなものを、制作の後半ではわりと考えていたかもしれないです。バンドっぽいものがあんまりカッコよくないと思っていた時期もあったんですけど、結局バンドがいいなと思ったんですよね。毎週新譜をチェックしてると、日本のアーティストも生音でもどんどん打ち込みっぽい音になってきてるし、ボカロの延長線上にいる人たちって、基本音数多いんですよ。それはそれでいいし、クオリティも高いと思うんですけど、人によっては金太郎飴っぽく聴こえるときもあって、こればっかりだと飽きると思ったりもして。
佐藤栄太郎(Dr) ポップスにおける金字塔のような確立されたリファレンスが1つあるとして、それを10年単位でみんなが忘れた頃に引用して、また若い人に響かせる、みたいな手法ってあるじゃないですか。僕もそれを何度か見てきて、バズってる曲を聴いても「これ〇〇じゃん」と思っちゃうんですよ。狙ってないならいいですけど、それを狙ってやるのは健全じゃないと思うし、そこに音楽的な進歩はないですよね。
──ちゃんと更新されていればいいと思うけど、そのまま繰り返すのはあまり意味がないですね。
佐藤 僕らは5年前に作った「夏夜のマジック」が最近になってバイラルヒットをしたわけですけど、ここで「夏夜のマジック」みたいな曲を再生産するんじゃなくて、今どこまでできるか、逆にどこからはできないのか、みたいな現状をコンパイルしていったほうが、また「夏夜のマジック」みたいなヒット曲が生まれると思うんですよ。それが何年かあとなのか、それとも明日なのかはわからないですけど。
川谷 今って音楽の流行り廃りのサイクルが速いし、難しいですよね。最近だとLINE MUSICの再生回数上位の人にプレゼントをあげるみたいな施策をするアーティストも多くて。それを入口にしてちゃんと音楽が聴かれるならそれも間違ってないとは思うし、サブスクだと生のバンドはしょぼく聞こえるときもあるから、打ち込みで緻密に作られた音楽が聴かれるのもわかる。でも、自分がやりたくないことをやってもしょうがないわけで。そこの葛藤もありながら、自分たちのやりたいことをやった結果、こういう作品になったんです。